ゴミ屋敷は社会との関わりが薄く、体の自由もききにくい独居老人世帯に多く見られます。超高齢化が進む日本では、今後もますますゴミ屋敷問題が深刻化していくでしょう。他人事と思わずに、ゴミ屋敷問題について、一度じっくり考えてみませんか?

なぜゴミ屋敷化してしまうのか

物で溢れかえり、悪臭や害虫による健康被害まで懸念されるのがゴミ屋敷です。通常なら不快で暮らせない環境にもかかわらず、なぜゴミ屋敷に暮らす人がいるのでしょうか。

普通の家がゴミ屋敷化してしまう原因をみてみましょう。

多忙により時間や精神的なゆとりがない

毎日忙しく過ごしている人は、片付けに費やす時間が取れません。忙しすぎると精神的にも自分を顧みる余裕がなく、家のことはおろそかになってしまうでしょう。

また、多忙が過ぎるとストレスが溜まります。うまく解消できないままストレスを溜め続ければ、うつ病を発症するなど、精神状態が不安定になるかもしれません。片付けや掃除には時間的・精神的余裕が必要ですから、そのどちらもなくなれば、片付けるということさえ頭に浮かばなくなってしまうのです。

認知症が原因の場合もある

ゴミ屋敷の主が高齢の場合、ゴミ屋敷化の原因は認知症かもしれません。認知症とは認識、記憶、判断する力が障害を受け、社会生活に支障をきたす状態のことです。認知症になるとゴミを出す場所や曜日が分からなくなったり、症状が進行すればゴミを出すこと自体を忘れたりします。

ほかに同居する家族がいない場合は、ゴミ屋敷化を食い止める手段がなく、ゴミはどんどん溜まっていくでしょう。

キレる、暴言を吐くのも特徴のひとつ

認知症を発症している人は、比較的症状が軽いうちからキレたり暴言を吐いたりする傾向がみられます。これは感情をコントロールする役割を持つ脳の前頭葉が萎縮しているためで、本人が理解できない状態に置かれたり、尊厳を傷つけられたと感じたりしたときに顕著です。

家族や近所の老人が急に怒りっぽくなった、言葉遣いが荒くなったと感じたら、それは認知症の始まりかもしれません。普段からなるべく様子を注視して、気になるようなら専門医や行政に相談してみましょう。

ゴミ屋敷の住人は一人暮らしの老人が多い

ゴミ屋敷に住んでいるのはどんな世代かといえば、半数以上は老人です。それも体力や人との関わりが無い老人が多く、ゴミ屋敷化を止める術がありません。

一人暮らしの老人の家がゴミ屋敷化する原因をみてみましょう。

体力が低下し片付けができない

ゴミを捨てるには、まとめたり分別したり運んだりとかなりの体力を使います。体力が低下し、手伝ってくれる人もない一人暮らしの老人なら、途中で片付けを投げ出したくなってもおかしくありません。

頼る人がおらず孤独

現代の一人暮らしの老人は、近隣世帯との関係が希薄で、どのコミュニティにも属していないことが多々あります。コミュニティに属するということは、『頼み事ができる』『誰かが気付いてくれる』『声をかけてもらえる』チャンスを持つということです。

ところが、一人暮らしで誰ともかかわらない老人は、どんなに苦しさや淋しさがあっても一人で対処してしまいます。「どうせ一人だから」「誰も自分のことなど構ってくれないから」と深い孤独に陥ってしまい、片付ける意義や意味を見出せなくなってしまうのです。

もったいない精神で物を捨てられない

幼少期に物がない貧しい暮らしを経験した高齢者の中には、物を捨てることに罪悪感を覚える人もいます。どんなものでも「捨てるのはもったいない」と感じてしまうため、物を減らすことができません。

不要な物を見ればいつか使えるかも、壊れた物を見れば直せば使えるかも、と考えてしまうため、結局どんなゴミやガラクタも大事に所有することになってしまうのです。

近所にゴミ屋敷ができたらどうする?

近所の家がゴミ屋敷化した場合、周辺の家が被る被害は大変なものです。溢れるゴミから出る悪臭が周り中にたちこめ、窓も開けられなくなります。また、そのゴミを狙ってカラスや野良猫が集まったり、ゴミにたかる害虫が発生して、近所でも被害を免れないでしょう。

その上、管理の行き届かないゴミ屋敷では、常に火災の心配もあります。一度火がつけばあっという間に燃え広がり、周辺の家の延焼の可能性があるでしょう。

もしも近所にこのようなゴミ屋敷ができた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

他人が勝手に処分できない

近所の家がゴミ屋敷化したとしても、そこにあるゴミやガラクタは勝手に処分できません。まず他人の敷地に許可なく入ることはできませんし、何がゴミで何が財産なのかの判別も難しいからです。

国の法律では『廃棄物』の定義はあっても、『ゴミ』の定義はありません。そのためゴミ屋敷の住民が「これは財産である」と言えば、どんなにゴミでも他人が処分してよいものではないのです。

まずは自治体に相談するのが安全

近所の家がゴミ屋敷化した場合、住民同士で話し合うよりも、まずは自治体に相談するのが確実で安全です。

ゴミ屋敷に住む人は精神的に不安定な人が多く、何気なく言った言葉や取った行動が相手を不快にさせ、さらにトラブルが深刻化することも考えられます。実際に過去には、ゴミを動かそうとした近隣住民がゴミ屋敷の主に暴行されたという事件もあるのです。

不用意にゴミ屋敷の主とコンタクトを取ることは避け、交渉や説得は自治体に任せておきましょう。

ゴミ屋敷の行政代執行も実施

ゴミ屋敷のトラブルは全国的に増加しており、年々深刻化しています。しかし、現在のところゴミ屋敷を直接的に取り締まる法律は制定されておらず、国主導でゴミ屋敷に対処するのは難しいのが現状です。

これに対し、自治体のいくつかは、独自の条例を制定してゴミ屋敷の対応に当たっています。『ゴミ屋敷条例』とも呼ばれる条令が制定された自治体では、ゴミ屋敷に注意・勧告するだけではなく、行政代執行の実施も可能です。実際にゴミ屋敷条例を制定している自治体をみてみましょう。

京都市で初の行政代執行がおこなわれる

2015年、日本で初めて行政代執行を行ったのが京都市です。市がゴミ屋敷を把握したのが2009年だったといいますから、行政代執行までには6年かかったことになります。

ゴミ屋敷を把握して以降、市は所有者に対し撤去を要請したり、2014年の条令制定後は、文書でも度々指導や命令を出したりしました。ところが状況は一向に改善されず、事態は膠着してしまいます。

この膠着状態を破るきっかけとなったのが、2015年愛知県豊田市で発生したゴミ屋敷火災です。ゴミ屋敷から出火した火が原因で近隣の家も被害を受けたという事態を重く見た京都市は、ついに件のゴミ屋敷の強制撤去に踏み切ったのです。

当日は市の幹部が行政代執行の開始を宣言し、所有者立ち合いのもとゴミの撤去が行われました。市の職員5名でゴミを撤去するまでに、約2時間を要したそうです。

横須賀市では氏名と住所を公表

横須賀市は2018年8月、『ゴミ屋敷の住民の住所・指名の公開』後、行政代執行を行いました。これは同年4月に施行された『横須賀市不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例』の11条を根拠に執行されたもので、神奈川県内の自治体では初めての事例です。

市が行政代執行を行うまでには約3年かかっており、ゴミ屋敷所有者に対しては、100回近くの指導・命令がされました。また、行政代執行約2週間前には『悪臭や害虫が発生する原因となる堆積物を2週間以内に撤去しなければ、代執行する』と通告もしていたそうです。

ところが期限を過ぎてもゴミが撤去されなかったため、市の代執行が行われることとなりました。

まとめ

ゴミ屋敷は他人事、と感じる人は多いでしょうが、ゴミ屋敷の住民も昔からゴミに囲まれていたわけではありません。

ストレスから精神状態が不安定になったり、加齢により体や精神に不調をきたしたりしたため、家がゴミ屋敷化してしまったのです。このような問題は誰にでも起こる可能性があり、身近なところでいつゴミ屋敷が発生してもおかしくないと心得ましょう。

また、もしも近隣の家がゴミ屋敷化した場合は、直接やりとりするのではなく、行政に相談することが重要です。近年は全国的にゴミ屋敷トラブルが問題となっており、行政も真摯に対応してくれるでしょう。