ゴミ屋敷のような不衛生な空間で過ごすことは、通常であれば耐えられないはずです。しかし、部屋がいつまでも片付けられずにゴミ屋敷化してしまう人が増えています。そのような状況になるまで放置してしまうのは、病気が原因かもしれません。

ゴミ屋敷が増加する背景

最近では、ゴミ屋敷の数が増加傾向にあります。このような状況の背景にはなにがあるのでしょうか。

孤独感がゴミ屋敷化に繋がる

大阪市が2014年にゴミ屋敷95件の原因者の年代を調査すると、60代から70代が6割を超えていました。同居人がいない原因の人は52人もおり、一人暮らしの高齢者の家がゴミ屋敷になりやすいという結果になりました。

最近では独居老人が増えており、近隣住民との関係が希薄になることで、孤独感に苛まれている人も増えていると考えられます。このような孤独感から、自身の生活管理が疎かになってしまうこともあるようです。

実際に、都内の葛飾・荒川・台東などのエリアでは、人情に厚い下町の名残りから、ゴミ屋敷になる前に近隣住民の異変に気付いた段階で介入するそうです。このような連帯意識が無くなると、ゴミ屋敷になりやすいのかもしれません。

単身世帯の増加

単身世帯が増加していることも、ゴミ屋敷が増加していることと関係があります。ゴミが溜まっている状態を見て注意してくれる人もいないので、部屋を綺麗に保つには住人による自己管理能力が必須となります。

しかし、中には面倒臭がりで片付けられない性格の人もいます。そういった人が一人暮らしをすれば、ゴミ屋敷になるのは容易に想像がつきます。

実際に、都内の新宿や中野あたりでは一人暮らしの学生が多く、このエリアではゴミ屋敷が発生しやすいといわれています。

集合住宅は深刻化するまで気づかれにくい

アパートやマンションのような集合住宅の場合は、外から家の状況が見えないので、ゴミ屋敷になっていても気づかれにくいことがあります。

ドアの前までゴミがはみ出ていたり、部屋から悪臭が漂ったりすることでようやく周囲が気づくこともあります。また、自分の部屋は綺麗なのに害虫がたくさん発生する場合は、隣の住民の部屋がゴミ屋敷化している可能性もあるでしょう。

このように、深刻な状況にならないと気づけないケースが多いのが厄介なところです。

ゴミ屋敷になるまで放置する理由は?

きちんと片付けをする習慣がある人にとって、ゴミ屋敷になるまで放置してしまう人の気持ちは理解できないでしょう。ゴミ屋敷に住んでいる人たちは、なぜそのような状況になるまで放置してしまうのでしょうか。

些細なことからゴミ屋敷化は始まる

以下のような些細なことから、ゴミ屋敷化は始まるようです。

  • 捨てることに罪悪感があり、物が捨てられない
  • 仕事や学校で感じるストレスが強く、家では掃除をする気が起きないほど精神的に弱っている
  • 生活や仕事のスケジュールが不規則で、ゴミ出しのタイミングを逃してしまう
  • 近隣住民にゴミ出しの仕方を怒られ、トラウマになった
  • 親に厳しく育てられた反動で、一人暮らしを始めたのを機に片付けをしなくなった

これまでは通常の生活を送っていても、なんらかの拍子に『片付けられない人』になってしまうことは珍しくありません。

自力ではどうしようもなくなる

部屋が深刻なレベルまで散らかってしまうと、それらを一人で片付けようとすれば非常に多くの時間を必要とします。ただでさえ多忙な日々を送っている人であれば、そのようなことに時間を割く余裕はありません。

そのため1度でも散らかってしまうと、自力ではどうしようもできなくなる状況にまで陥ってしまうこともあるのです。

簡単な掃除ならすぐに終わりますが、かなり部屋が散らかっていると不用品の仕分けやゴミの運び出しなど、たくさんの作業をしなくてはなりません。このような状況では、特に単身世帯の場合は時間的にも体力的にも厳しいでしょう。

感覚が麻痺する

汚い部屋に住んでいるとその環境に慣れてしまい、深刻な状況であっても『そこまで散らかっていない』と感じるようになります。その結果として、片付けたいという意思すら無くなってしまうのです。

1度そのような感覚になってしまうと、ゴミを部屋に放置したり、汚い環境で寝たりすることに抵抗が無くなります。このようにしてゴミ屋敷化していくのです。

また、このタイプはゴミ屋敷化したとしても状況を深刻に捉えていないので、近隣住民に指摘されるまで放置し続けるでしょう。

片付けられない、ゴミを溜めるのは病気?

片付けられない原因が、実は病気に隠されていることもあります。『片付けようとは思っているのに、なぜかいつまで経っても行動に移せない』という人は、病気を疑ってみたほうがいいかもしれません。

発達障害やうつ病などの可能性もある

片付けられない原因の1つとして、ADHD(注意欠陥・多動性障害)という発達障害があります。ADHDには以下のような特徴があります。

  • 気が散りやすく、興味の対象がコロコロと変わる
  • 物を失くしやすく、忘れ物が多い
  • 仕事などでケアレスミスをよくする
  • つい衝動買いをしてしまう
  • 作業を順序立ててやることができない

ADHDの中にも色々なタイプがいます。気が散りやすいタイプは、片付けを始めたものの、他のことが気になって作業を中断したまま再開しないことがあります。作業を順序立ててできないタイプは、片付けをする前から何から手をつけていいかわからずに、放置してしまいます。

また、うつ病の人も片付けが苦手になりやすいでしょう。気分が落ち込んでいるときは、何もせずにぼーっとしてしまうこともあるでしょう。また、感情の浮き沈みが激しいので『明日こそ掃除しよう』を思っていても、次の日には無気力状態になってしまうこともあります。

ためこみ症という名前がつく

アメリカの精神医学界では、過剰に物を溜め込んでしまう症状を『ためこみ症(ホーダー)』と名付けました。

ためこみ症の人は、物を手に入れたときや溜めこむことに安堵感や責任を感じます。しかし、物を捨てたり入手できなかったりすると不安や罪悪感に駆られてしまうのです。

そのため不要だとわかっているものでも捨てられず、大切に保管します。親世代にありがちな『もったいない精神』とは性質が異なり、生活に支障が出るレベルまで物を溜め込んでしまう傾向にあります。

老人の場合は認知症の可能性も

認知症の人は、今自分がどこで何をしているのかがわからなくなったり、今まで簡単にこなしていた火事などの作業ができなくなったりします。そのため通常の片付け作業も困難になり、いつの間にかゴミ屋敷となってしまいます。また、曜日感覚が薄れるので、ゴミ出しの日を忘れてどんどんゴミが溜まってしまうこともあります。

一人暮らしで認知症を発症している老人の場合は、身内や近隣住民の手助けがなければ部屋が散らかる一方となってしまいます。

ゴミ屋敷に住むことで起こる負のスパイラル

ゴミ屋敷に住んでいると、体だけではなく、心も蝕まれていくといいます。それはどういった理由でしょうか。

気持ちが落ち着かない

人間の脳は目に映ったものをすべて処理しようとします。そのため、ゴミや不用品が多いと目から入ってくる情報量が多すぎるため、脳が疲れてしまいます。

それによって常に気分が落ち着かなくなり、自宅にいるのにもかかわらず心が休まらなくなります。

不衛生が原因で病気になる

ゴミ屋敷を放置すると、必然的に害虫の発生やハウスダストによって衛生面の悪化が懸念されます。また、賞味期限切れの食品を放置するとカビや菌が繁殖し、誤って口に入れば食中毒の危険性も高まります。

こういった生活の不衛生が原因で、アレルギーや皮膚炎、気管支喘息などの病気に罹りやすくなるでしょう。

まとめ

ゴミ屋敷に住んでいる人の心理を考えてきました。『自分は大丈夫』と思っていても、ふとした拍子に片付けられない人になってしまうこともありえます。決して他人事だと思わないようにしましょう。

どうしても時間や体力的な都合で、しばらく片付けができない時期は、誰にでもあるでしょう。しかし、家族や知人に協力を求める、時間の管理を見直すなど、自覚できるようでしたら早急な対策を取ることをおすすめします。