1人暮らしの高齢者や若者の住まいがゴミ屋敷化するのが昨今では社会問題となっています。デメリットしかないにもかかわらず、なぜゴミ屋敷化してしまうのでしょうか?ゴミ屋敷に住む人の心理と、片付けられない理由、そして解決策を紹介いたします。

ゴミ屋敷とは

ゴミ屋敷問題はテレビや雑誌で度々取り上げられるので、漠然としたイメージを持っている人もいるでしょう。ゴミ屋敷化する住まいは年々、高齢者を中心に増加傾向にあります。

「自分は大丈夫だ」と思っている人でも、親や近親者の家がゴミ屋敷化するといった可能性はゼロではありません。実際にゴミ屋敷化の問題に直面する前に、実態について知っておきましょう。

住居がゴミや不要物で溢れた状態

近年、メディアから『片付けられない高齢者や若者が増えている』という言葉を耳にします。映像で流れる彼らの住居は見るにたえないほど散らかっていますが、ゴミ屋敷はその比ではありません。

床は脱ぎかけの衣類や雑誌をはじめ、弁当の容器やペットボトルなどの不要物など、色々なもので溢れかえっていて、床が見えません。廊下から入り口まで同様にゴミで溢れかえり、扉を開けるのさえゴミが邪魔で出来ないこともあります。

お風呂場やキッチンは、洗っていないお皿や調理器具で溢れかえり、カビが生え、虫の住み家になっています。部屋はゴキブリなどの害虫がひしめき合っていて、悪臭が立ちこめているといった状態です。

横浜市の資源循環局が行った調査では、2017年時点で市が把握している横浜市内のゴミ屋敷の数は、93件にのぼるとされています。横浜市に限らず、全国各地でゴミ屋敷化は問題になっているのです。

出典:温暖化対策・環境創造・資源循環委員会資料「いわゆる「ごみ屋敷」対策について」

単身者が多い

ゴミ屋敷化してしまう家主の特徴は、単身者が多いことが挙げられています。1人で暮らしていると人目も気にならないので、散らかっている状態に慣れてしまうのです。最初は雑誌や衣類を床に放置するようになり、エスカレートすると弁当の容器に食べ残しが入っていても、平気で放置するようにになってきます。

当然、そのまま放置していれば腐って異臭を放つようになりますが、本人は気になりません。人間の鼻は『疲労性』と言って、同じ匂いを嗅ぎ続けていると順応し、その匂いを知覚できなくなるのです。

このように、外部の環境に対しての変化に気づきにくくなり、そのことに誰からも指摘がされないのも、単身者が多い要因でしょう。

なぜ物を溜め、ゴミを捨てられないのか

自分の住まいを最初からゴミ屋敷にしようと思っている人はいないでしょう。しかし、ゴミ屋敷は年と共に増えているのが実情です。

その理由はなぜなのか、ゴミ屋敷に住んでいる人の背景や心理について考察してみましょう。

孤独感を物で埋めようとする

ゴミ屋敷に住む人が単身者が多いことからも、孤独感を物で埋めようとしている傾向が窺えます。

孤独からくるストレスを買い物で発散しようとしたり、思い入れのある物を周囲に置くことで、孤独を紛らわせようとしているのです。

しかし、家が散らかるほどさらに人が呼びにくくなり、ゴミ屋敷ともなれば人が寄りつかなくなってしまいます。

物が多くなるほど、本来求めていたはずの人との繋がりから遠ざかっていくのです。

もったいない心理

物はお金を出して購入してるのですから、捨てる際に「もったいない」という心理は誰にでも働きます。

しかし、度の過ぎた「もったいない」は、いたずらに物を増やし、部屋のスペースを圧迫していくのです。本当にそれを使う機会は来るのか、考える必要があります。

例えば、着られなくなった中古着を「痩せたらまた着られるかもしれない」と取っておく人は多いでしょう。しかし、服には色とデザインにトレンドがあります。サイズ的に着られるようになったとしても、流行から大きく外れていれば着ることはないでしょう。

このように、使用可能であることと、実際に使用するかは分けて考える必要があります。

自分は困っていないから

自分の室内がいくら物で溢れていても、衣食住の面で困ることはないでしょう。家に人を呼ばなければ周囲に知られることはありませんし、よほどの悪臭などが発生しなければ近隣からクレームが来るケースも稀です。

たしかに一定ラインまではそうかもしれません。しかし害虫の発生やハウスダストなど、本人が気づいていないだけで確実に本人の心身は蝕まれています。

ゴミ屋敷化する前に、いかにゴミに埋もれた環境が本人に悪影響を及ぼすのかを、周囲の人間が根気強く説得する必要があるのです。

ゴミ屋敷化する原因は?

物が片づかないことの延長上にゴミ屋敷があることは間違いありません。しかし、多くの人はゴミ屋敷化する前に部屋を片付けます。

片付けられない人は、何が原因なのでしょうか。今度は心身の面から理由を解説していきます。

片付ける体力、気力の低下

高齢者に顕著なのが体力の低下です。誰しも年を取ると体力が落ちていき、昔できていたようなことができなくなっていきます。

重い物が持てなくなりますし、2階や他の部屋に運ぶのも一苦労です。そうなってくると、次第に物が片付かなくなっていきます。

また気力の低下も大きな要因でしょう。日中会社で働き詰めで、休日は疲れて家で寝るだけ、というような生活を送っている人にとって、片付けは非常に億劫に感じてしまいます。

そうなると、物を片付けるよりも増える量の方が多くなっていき、やがて部屋が汚くなっていくのです。

メンタルの問題

ゴミ屋敷化には精神的な問題が関わってくるケースもあります。精神的な問題の場合、周囲の理解が得にくいということもあり、ますます悪化してしまうのです。

そういった人達の理解者となり、ゴミ屋敷問題を解決するためにも、どのような問題があるのかを見ていきましょう。

うつ病

うつ病は、潜在的に抱えている人も含めると現代社会ではかなりの数に上ると言われています。意識の低下や不安、焦り、無気力感などに襲われ、重いものだと自殺につながるようなケースもあるのです。精神的な面だけではなく、睡眠障害や食欲不振、体の痛みを伴う場合もあります。

このような状態では日常生活はもちろん、部屋の片付けにまで着手するのは難しいでしょう。実際にゴミ屋敷の住人がうつ病であることが報告される事例もあるようです。

セルフネグレクト

ネグレクトは放棄という意味で、セルフネグレクトは『自己を手放してしまうこと』です。ゴミ屋敷もそうですが、多数の動物を室内で放し飼いにしていて極めて不衛生な状態などもこれにあたります。自身の衛生状態や自己管理を完全に諦めてしまうのです。

セルフネグレクトになるきっかけは『孤独』が多いと言われています。家族との関係悪化や、夫や妻に旅立たれて1人になってしまった高齢者などがなりやすいようです。孤独死の要因の多くもセルフネグレクトではないかと言われていますが、日本ではようやく研究が進み始めた分野であり、一般の認知度はまだ低い状態です。

対策としては、とにかく1人にしないことが挙げられます。特に、長年連れ添った相手に旅立たれてしまった近親者のことは、よくよく気に掛けてあげた方が良さそうです。

認知症など病気の可能性

他の要因としては、ADHDや認知症が挙げられます。

ADHD(注意欠陥多動性障害)は授業中に落ち着きのない子供などでよく聞く症例ですが、大人でもかかっている場合は少なくありません。片付けにまったく集中できない、すぐに他のことをしてしまうといった状態がかなりの時間続いている場合は、1度診断を受けた方が良いかもしれません。

認知症は、記憶や判断能力が著しく欠如する障害のことを指します。どこから物を取ってきたのか、物をどこに戻すのかがわからなくなり、部屋の片付けができず散らかっていく一方です。認知症が進むと自分が今やっていることが急にわからなくなってしまったり、相手や自分が誰かわからなくなってしまうこともあります。

このような状態で、部屋の片付けをするのは非常に困難と言えるでしょう。

ゴミ屋敷に住む悪影響

住んでる当人は無自覚かもしれませんが、ゴミ屋敷に住んでいることで様々な悪影響が心身に及びます。それ以外にも様々な部分で生活にデメリットがあるでしょう。

自分や近しい人の住まいがゴミ屋敷化するのを防ぐためにも、具体的な要因について知っておきましょう。

うつ病の発症、悪化につながる

うつ病はゴミ屋敷化の原因でもありますが、逆にゴミ屋敷に住むことで、うつ病を発症してしまうこともあります。

うつ病の原因について正確にはわかってはいないのですが、一端にはストレスが原因と言われているようです。ゴミ屋敷は悪臭や汚さ、物の探しにくさといった不便性が知らない間に心にストレスをかけていることもあります。

また、テレビなどで綺麗な部屋を見るたびに、自分の現状と比較して自己否定をしてしまう人も多く、そういったところからもうつ病の発症や悪化につながる怖れがあるようです。

害虫による健康被害

食べカスや生ゴミはカビや害虫の温床になります。ゴキブリやハエは様々な雑菌や病原菌を家の中へもたらし、拡散します。清潔な家の中ではかからないような病気にかかりやすくなるのです。悪いものを食べなくても、食中毒などになってしまうことがあります。

ダニも同様です。イエダニは人間の血を吸い、その時に病気にかかる可能性があります。また、ダニの死骸や溜まった埃によって肺がやられてしまい、喘息などの呼吸障害を引き起こすこともあるのです。

経済的にも圧迫される

ゴミ屋敷になると経済的にも大きな影響を受けるでしょう。

収集するほどの物を購入しているということが、すでに経済面で打撃を与えていますし、物が探しにくいため同じ物を購入してしまうことも増えます。ゴミ屋敷に住むことで、経済感覚がマヒしてしまうのです。

衣食住においても、キッチンが使えないために外食が多くなり、洗濯機が使えないのでコインランドリーの利用や銭湯に行く機会も増えます。衣類が虫に食われるなどして、物持ちも悪くなるでしょう。このように生活するだけで多額の出費が増えるため、経済的に苦しくなっていくのです。

また、自治体により強制撤去がされた場合は、その費用はゴミ屋敷の住人が払わなければなりません。

解決にはプロの協力が必要な場合も

ゴミ屋敷の域にまで及んでしまうと、片付けをするにしても家主を説得するにしても、素人ではどうしようもなくなってしまいます。そんな時は、プロに頼んでみましょう。専門家がどんなことができるのかを解説します。

原因の特定と治療、心理状態を改善

うつ病や認知症、買い物依存症をはじめ、物を溜め込む『ためこみ症』という精神障害もあります。こういった精神状態の診断は、素人には不可能です。

家族の暖かい言葉や協力が必要になるのはまだ先の話で、まずは症状に合わせ、ゴミ屋敷の家主を適切なカウンセラーの元に受診させる必要があります。

掃除業者やアドバイザーを頼る

ゴミ屋敷レベルの片付けは個人で行うのは不可能なケースも多く、プロの片付け業者に依頼をすることを考えても良いでしょう。綺麗になった部屋で改めて住人と相談すれば、落ち着いて今後のことも相談できるはずです。

また、ゴミ屋敷にしないための収納方法や片付けについてアドバイスをすることを専門にしているアドバイザーもいますので、片付けられないという人は頼ってみましょう。

ゴミ屋敷の社会的な問題

ゴミ屋敷が社会問題としてたびたび報道されるのは、周辺の住民の生活に害や危険をもたらす可能性があるからです。

周辺環境にどのような悪影響があるか見ていきましょう。

周辺の住環境の悪化

ゴミ屋敷の生ゴミ等の臭いが周辺に拡散されるようになります。自治体に寄せられる報告でも、ゴミ屋敷への苦情は悪臭・景観の悪化が多くの割合を締めているのです。

マンションの一室がゴミ屋敷だと、ベランダを通じてゴミが隣の部屋になだれ込むというケースもあり、トラブルの元となります。

他の要因としては害虫です。ゴミ屋敷で発生した害虫が近隣家屋に移動し、そこで被害を与えることがあります。ゴキブリやハエやシロアリ、さらにはネズミまでがゴミ屋敷が原因で周辺民家や部屋を荒らすことがあるのです。

火事の原因になる

ゴミ屋敷の生ゴミから発生するガスや、コンセントに埃が溜まって発火するトラッキング火災など、ゴミ屋敷は火災が発生する可能性が増えます。また、放火犯にも目をつけられやすくもなるようです。

燃えやすいものがその辺りに散乱しているため、1度火がついたらあっという間に燃え広がります。火に勢いがあるため、周囲の民家や部屋に燃え移ってしまうのです。ゴミ屋敷にしていることで過失を問われて、多額の賠償金を支払わなければならなくなることもあります。

孤独死につながる

ゴミ屋敷にしていると、見に来る人がいなくなります。周辺住民はおろか、親族であっても中に入るのを躊躇うでしょう。

結果、ゴミ屋敷に住む高齢者は自身の異常に気づいてもらえず、孤独死するケースが増えているのです。死後何ヶ月も経ってからようやく発覚するというケースもあります。

孤独死をした場合、大変なのはその遺族です。腐敗した遺体の痕跡の消去やクリーニング、ゴミ屋敷の清掃や遺品の片付けなど、金銭的にも手間でもかなりの面倒をかけてしまいます。そうならないためにも、住んでいる人が孤独にならないような環境を作ることが大切です。

ゴミ屋敷の改善方法

ゴミ屋敷化はゴミ屋敷に住む人だけでなく、周辺への被害も大きいことから、決して放置はできません。近親者の住まいがゴミ屋敷になっていた場合、周りの人は何ができるのかを考えてみましょう。

家族のサポート

ゴミ屋敷の住民は、どのようなデメリットがあるのかを自覚症状がない場合が多いです。そこでまず「ゴミ屋敷という環境に住んでいてはいけない」ということを根気強く説得する必要があります。そして本人の了解を得て、業者に頼むなりしてゴミ屋敷の片付けを行いましょう。

ただし家族であっても話をきいてもらうためには一定以上の信頼関係は必要です。また、ゴミ屋敷化させないためにも、何か兆候があればすぐに気付けるよう、頻繁にコミュニケーションを取っておきましょう。

自治体による働きかけ

自治体ではゴミ屋敷に関する条例を強いているところもあります。住民からの相談を受けて実態を調査し、ゴミ屋敷の住人に対して指導や勧告を行うのです。それから近隣住民のためにも早急にゴミ屋敷を片付けてもらうよう働きかけます。

この警告を再三にわたって無視していると『行政代執行』の措置が取られます。行政代執行とは、義務を果たさない住民に対し、強制的にその義務を執行し、費用を徴収するというものです。分別の余地もなく物が処分されるだけでなく、かかった費用を全額請求されます。

このようなことにならないように、普段からゴミ屋敷化しないように片付けを習慣化しておく必要があるでしょう。

まとめ

ゴミ屋敷は周辺住民や親族からすればたしかに迷惑な存在ではあるものの、その原因は孤独であったり心の病気であったりと、本人ではどうにもできない場合も多々あります。それにいち早く気付けるよう、周囲の人が気に掛けてあげる必要があるでしょう。

また本人としても、ゴミを溜め込まないように片付けを習慣化する、物を必要以上に買わないといった努力は必要です。ゴミ屋敷化して悲惨な生活を送るよりも、周囲と協力して社会に関わっていき、自身を孤立させないように努力することも大切なことでしょう。