近年、ゴミ屋敷は社会問題となり、メディアでも度々取り上げられます。なぜ家がゴミ屋敷化してしまうのでしょうか?自分の近所や親戚の家がゴミ屋敷にならないとも限りません。万が一に備えて、ゴミ屋敷化の原因や問題点を知っておきましょう。

日本でゴミ屋敷が増加中

日本では、ゴミ屋敷化が深刻な社会問題となり、テレビや雑誌でも度々特集が組まれています。一軒家だけでなく、アパートやマンションの一室がゴミ屋敷化してしまう『隠れゴミ屋敷化』や、将来的にはゴミ屋敷になってしまうであろう散らかった住まいなどを合わせれば、ゴミ屋敷はかなりの数に上るでしょう。

なぜここまでゴミ屋敷が増えてしまっているのでしょうか?

片付けられない悩みを持つ人は多い

『整理収納アドバイザー』の資格講座には、キャンセル待ちが出るほど申し込みが殺到しています。その中には片付けのプロを目指す人もいますが、大半の受講者は一般のサラリーマンや主婦、定年退職した高齢者だそうです。

ゴミ屋敷化とまではいかなくても、日々の仕事や雑用に追われてなかなか家を片付けられる時間が確保できないため、効率的に短い時間で片付けたいという人が増えているのでしょう。

多忙な現代社会において、片付けに関する悩みを人は多いのではないでしょうか。

悪化するとゴミ屋敷に

物が溢れているというのも、ゴミ屋敷化の原因の一端でしょう。現代は日用品に限らず娯楽品も増えたことにより、昔よりも部屋の中に物が確実に増えました。

通信販売の発達で、家にいながらでも大きな物の買い物ができるようになった影響も大きいでしょう。そうして物が増えていくと、通常の生活スペースを圧迫して部屋が狭くなっていくのです。

狭くなった部屋は片付けがしにくく、物の増加に片付けが追いつかなくなり、ゴミ屋敷化してしまいます。物を購入する時は、置けるだけのスペースがあるのかを考えるようにしましょう。

一人暮らしの高齢者の割合が高い

ゴミ屋敷化は、時間のない社会人だけの問題ではありません。一人暮らしの高齢者のゴミ屋敷化の急増も大きな社会問題です。

高齢になると体力がなくなり、以前にはできたような片付けができなくなります。また記憶力や判断力が落ちることで物を元の場所に戻すことができなくなるので、手の届く範囲から散らかっていくのです。

今後、60歳以上が人口に占める割合が増えていくこともあって、高齢者の住まいがゴミ屋敷化する件数は、ますます増えるといわれています。

ゴミ屋敷に関する条例も誕生

ゴミ屋敷に関して、自治体が条例をしくケースも増えているそうです。東京23区の中でも足立区や荒川区、他県でも大阪市や京都市などがゴミ屋敷に関する条例を施行しています。

周辺住民が、ゴミ屋敷に苦情を訴える件数の増加が背景にあることが原因のようです。ゴミとはいえ他人の所有物ですし、勝手に家にあがりこんで処分するわけにもいきません。そこで、周辺に悪影響を及ぼすと判断した場合は、自治体が指導や勧告、または退去の強制執行をできるように制度を整えている自治体が出はじめました。

今後もゴミ屋敷化に関する条例を制定する自治体が増えていくでしょう。

ゴミ屋敷に住むと心身の健康が悪化

ゴミ屋敷に住んでいると、心身の状態が悪化していきます。どのような理由から健康被害があるのかを見ていきましょう。

害虫による病気

ゴミ屋敷化による大きな問題の1つは害虫問題です。食べかけの弁当箱や飲み物の残り、洗っていない水場などによって不衛生が加速し、害虫の発生源になります。

ハエやゴキブリは、不潔な細菌を家中のあらゆる場所に運びます。大腸菌やサルモネラ菌、O-157はとても危険な細菌です。埃が布団の中に溜まっているとダニが沸きやすくなります。イエダニは人間の血を吸い、感染症を引き起こす可能性もあるので厄介です。

害虫だけではなく、埃によるハウスダストやカビの繁殖などによっても病気になりやすくなります。

転倒などによる怪我

ゴミ屋敷化し、床が見えないような状態は危険です。物の高さの差によってつまずきやすくなり、転倒の原因になります。階段や玄関に物が積んである状態では、段差が見えにくくなっているので怪我をしやすくなります。高く積んだ物が、地震などの何かの拍子に落下してくる可能性も考えられるでしょう。

特に高齢者は若いときに比べて体が硬く、骨が脆くなっているので怪我をしやすい傾向にあります。高齢者の室内事故も増加傾向にありますので、普段から物を片付けておくといった対策が必要です。

メンタル状況の悪化

家の中が散らかっていると、精神面にも悪影響をもたらします。空間が狭くなっていることによる圧迫感や、生活動線上に物があることは、無自覚のうちにストレスを溜め込みます。

家がゴミ屋敷化していては、来客を呼ぶこともできないため、人恋しさに悩まされるでしょう。特に高齢者は孤独によるストレスがメンタル面の悪化だけでなく、認知症やアルツハイマー病を発症させる可能性があります。

不衛生な状況から起こる虫の発生や悪臭、物がなかなか見つからないといった状態が続くと、次第に心を病んでいってしまうでしょう。

ゴミ屋敷は個人だけの問題ではない

ゴミ屋敷化は、家主だけの問題ではありません。肉親や知人、周辺環境に多大な影響を与えます。

どのような悪影響を周囲にもたらしてしまうのか、具体的に見ていきましょう。

近隣への悪影響

ゴミ屋敷は近隣の周辺に住んでいる人にも悪影響を及ぼします。ゴミ屋敷に関する役所への訴えも、大半はゴミ屋敷に住んでいる周辺住民からのものです。自治体が訴えを認めて強制撤去に及んだケースもあります。

近所から悪評が立つとご近所トラブルの増加も増えますし、何かの時に助けてもらえなくなるでしょう。しかしゴミ屋敷の家主は「自分の家の中なのだから何を置いていても構わないだろう」と思っているケースが多いのです。

しかし本人は家の中だけに留めているつもりでも、近隣には様々な迷惑がかかっています。どんな迷惑をかけるのかを見ていきましょう。

悪臭や害虫の問題

ゴミ屋敷から発生する悪臭が、周辺住民にとって悩みの種になります。騒音などと違って常時発生しているということや、簡単には遮断できないというのが厄介な点です。特に夏場であればその被害は大きいものになります。

また、ゴミ屋敷で発生したシロアリやダニが、近隣の家にも入り込んでしまうといったケースが考えれます。自分の家はきちんと掃除をしているのに、外部が原因で害虫被害に遭ってはたまったものではありません。

ゴミ屋敷が原因の火事も起こる

散乱したゴミは、火事の原因になることもあります。特に冬場の乾燥した時期には要注意です。静電気による自然発火や、腐敗物で溜まったガスが原因で、火元がなくても火事が起こる可能性があります。周囲に可燃物質が多い事もあって、普通の家よりも早く燃え広がってしまうでしょう。

このようなケースでは、ゴミ屋敷の家主が過失責任を問われ、多額の損害賠償金を請求されるケースもあります。

孤独死の増加

家族にも知人にも看取られずに、家の中でひっそりと亡くなる孤独死も増えています。ゴミ屋敷では訪問する人がいないために、死亡から発見まで数週間以上空いてしまうケースもあるようです。

遺体の腐敗による悪臭や蛆の発生によって、周辺に多大な迷惑をかけるだけでなく、遺体があった現場も凄惨なものになります。ゴミ屋敷にしないのはもちろんですが、普段から近隣の住民や家族とコミュニケーションを取っておき、異常があればすぐに誰かが気づいてくれる環境を作るのも大切です。

処分を自治体が負担する場合も

自治体などの行政機関が住人の利益のために行う強制的な措置を『行政代執行』といいます。災害によって破損した器物の修繕だけでなく、公園を占拠しているホームレスの立ち退きに使われることもあります。ゴミ屋敷の撤去も例外ではありません。

行政代執行でゴミ屋敷を撤去する場合は最終手段です。その前に何度か警告が発信され、最終的に指示に従わない場合は執行となります。そして、その場合にかかった費用は、後で家主に請求され、払わなければいけません。

ゴミ屋敷化の流れ

最初からゴミ屋敷にしたいと思っている人はいないでしょう。ゴミ屋敷化は、住人の無自覚な水面下で徐々に進んで行き、気がついたらもう手遅れになっているというパターンが多いようです。

ゴミ屋敷化の流れを知り、兆候をいち早く察知できるようにして、未然にゴミ屋敷化を防ぎましょう。

物を捨てられない、溜め込む

ゴミ屋敷の住人は、買い物依存症になっていることがよくあるそうです。趣味の物や本や嗜好品、洋服などを買いあさり、それが部屋を埋め尽くしてしまいます。人間関係や仕事のストレスや寂しさを、買い物や物への執着によって解消する行為が、ゴミ屋敷化の原因の一端を担っているようです。

また、古着や古雑誌などの中古品をなかなか捨てられず、溜め込んでしまうのも主な原因です。本人にとっては大切なものと認識していて、家族や他の人がいくら捨てるように言っても言うことを聞きません。普段からコミュニケーションを取っておくことも重要になります。

部屋の片付けが追いつかなくなる

仕事が忙しすぎて部屋を片付ける時間がない、ゴミの回収にゴミ出しが間に合わなないといった理由から、家の中に物が溜まっていきます。現代は昔に比べてゴミの分別も複雑になってきているのも原因でしょう。大型ゴミや家電は処分に手間がかかることもあって、室内に放置しているケースも少なくありません。

捨てる量よりも物が増えていく量の方が多いため、いつしか部屋の中が片付けきれない物で溢れ始めるのです。

悪循環が進み自力で解決できない規模に

住み始めた当初の片付けは簡単な作業で済んだとしても、1度散らかり始めるとその作業量は膨れあがっていきます。

ゴミが増えるとゴミの仕分け作業も複雑になりますし、物の隙間に埃が溜まりやすくなるでしょう。片付けに1時間程度の作業を取れる人はいても、半日、1日となると難しくなってきます。

片付ける時間がないからと放っておくとさらに部屋の中が散らかって、より片付けができなくなります。そしていつか、個人の力ではどうにもならないところまで来てしまうのです。

ゴミ屋敷になるまで片付けられない理由は?

ゴミ屋敷になるまでの流れを見て「そうなる前に片付けておけばいいのに…」と思う人もいるでしょう。

しかし、人によってはそれができない場合もあります。一体どのような理由があるのかをまとめてみました。

体力や気力の衰え

高齢になると、体力や気力が衰えてゴミ捨てや片付けができなくなってしまいますが、体力や気力の衰えは高齢者に限ったことではありません。社会人になって運動をしなくなり、デスクワークで1日中机に座っているようになると体力が衰え、体が硬くなっていきます。

日々の仕事や人間関係に疲れ、平日はおろか、休日も1日中寝て過ごしてしまうことも出てくるでしょう。高齢化やライフスタイルの変化による身体機能の衰えは日常生活に悪い方の変化をもたらすのです。

片付けという行為そのものが億劫になってしまって、家の中が徐々に散らかっていきます。

認知症など病気が原因の場合も

高齢化に伴って、認知症やアルツハイマー病などが発症してしまうことも片付けられない原因と考えられます。

認知症になると判断力が著しく鈍ってしまい、目の前のものがゴミなのかそうでないかの分別がつかなくなるのです。買ったことを忘れてしまい、同じ物を何度も買ってしまうといった失敗をしてしまいます。

さらには、不要な物でも集めてしまう収集癖の発症や「これは自分にとって何よりも大切だ」と思い込んでしまう、強迫性障害といった精神病を患ってしまうことも原因として考えられるでしょう。

メンタルの要因も大きい

体や脳の問題ではなく、ゴミ屋敷の住人は心にも大きな問題を抱えていることがあります。ゴミ屋敷化の原因を内面的な要因を中心に見ていきましょう。

寂しさから物を溜め込む

ゴミ屋敷の住人は、ゴミ屋敷になる前から人と接する機会の少ない人が多いようです。人との接触で満たせない寂しさを、物に囲まれることで満たそうとします。

しかし残念なことに、いくら物を増やしたところで、人のように反応が返ってくるわけでも話し相手になれるわけでもありません。

そうした不満からさらに寂しさが募っていき、余計に物を集めるようになってしまうのです。

セルフネグレクト

ネグレクト(無関心)は、子育てについてたびたび問題視されることがありますが、高齢者の1人暮らしでは自分自身に関心を持てなくなる『セルフネグレクト』が問題になっています。

自分自身の暮らしがどうでもよくなってしまうので、散らかっても片付けない、室内にある危険なものでもあえて放置してしまうといった兆候が見られるようになるのです。

さらに自分に関心がないということは、「他人にどう思われようがどうでもよくなる」ということでもあります。自分の家の景観が汚くなったり、ゴミ屋敷化で他人に文句を言われたりしてもそれをどうでもいいと感じてしまうのです。

ゴミ屋敷を解決する方法はある?

1度ゴミ屋敷化してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか?基本的には、本人のみの努力による解決はほぼ不可能です。ゴミ屋敷に慣れてしまっていて、何が悪いのかもわかっていない場合もあります。

ゴミ屋敷問題を解決するには、第三者の努力が必要不可欠です。

家族や近隣によるサポート

ゴミ屋敷化は未然に防ぐのが1番です。そのため、親をはじめ、近所に1人暮らしをしているようなお年寄りの家があれば気に掛けてあげた方が良いでしょう。兆候をいち早く察知することが何より大切になります。

例えば、常に窓やカーテンが閉められたままの状態や、段ボールや包装紙が外に捨てられている場合、庭の雑草などが覆い繁って手入れがされていない場合などは少し注意をしておいた方が良いかもしれません。ゴミ屋敷化の兆候です。

ゴミ屋敷化してしまった場合は、解決をサポートできるのはほとんどの場合は家族か、被害を受ける近隣住民になります。根気強く説得して、現状を把握してもらいましょう。認知症などの兆候が見られるようでしたら、自治体への報告や入院の手続きも必要です。

自治体により行政代執行

家主がゴミ屋敷の片付けをどうしても行わない場合、最終的な手段は自治体による行政代執行しかありません。自治体が主導でゴミ屋敷の片付けや撤去作業を行います。

ただし、行政代執行を行うまでには近隣住民からの通報から聞き取り調査や専門家との相談などを含めて、「これ以外に方法はない」と自治体側が判断を下す必要があるので、近隣の協力はどうしても必要になります。

まとめ

家がゴミ屋敷してしまう原因は、高齢化や多忙による体力や気力が衰えて、掃除が少しずつ疎かになってしまうのが原因のようです。他人との繋がりが薄くなり孤独を感じてしまうと、物に執着したり、認知症などの発症確率も高くなります。

ゴミ屋敷化しないためには、普段から周囲の人間が気に掛けてあげるのが最良の対策です。近所に孤独なお年寄りが住んでいたら、朝の挨拶だけでも気に掛けてあげるとだいぶ違いますので、近所付き合いや親とのコミュニケーションはこまめに行いましょう。